No.21 Tradition for a better future~伝統をより良い未来に活かすために|特定非営利活動法人 女性と仕事研究所

SDGsでキラリ輝く大阪をつくる女性たち

No.21 Tradition for a better future~伝統をより良い未来に活かすために

2020年10月01日

山本 佳誌枝(やまもと よしえ)さん
公益財団法人 山本能楽堂 事務局(大阪サクヤヒメSDGs研究会まちづくり部会メンバー)

公益財団法人 山本能楽堂 事務局長
大阪サクヤヒメSDGs研究会まちづくり部会メンバー

同志社大学文学部英文科卒業。辻学園日本調理師学校卒業。
資格:博物館学芸員、中学校英語教員免許、調理師・ふぐ調理師免許
受賞:大阪サクヤヒメ賞、関西財界セミナー「輝く女性賞」

2013-2015年 いけばなインターナショナル大阪支部 支部長
2015年 大阪府市都市魅力戦略推進会議委員
2017-2019年 関西広域連合会議委員
大阪商工会議所ツーリズム振興委員会 委員
大阪商工会議所女性会 会員
2015年より NHKラジオ深夜便 関西発日本列島くらしのたより レポーターをつとめる。


現在のお仕事の内容をお聞かせください。

観世流能楽師・山本章弘との結婚を機に、それまで知らなかった能楽の世界の裏方をつとめるようになりました。
2006年に大阪商工会議所と共催で、大阪ナイトカルチャー事業の一環として、「初心者のための上方伝統芸能ナイト」公演を立ち上げて頂いたのが、大きな転機となりました(ご担当は、当時地域振興部にいらした本奈美さんでした)。この事業を通して、能が天下人となった太閤秀吉以来、大阪にゆかりの深い芸能であることを再認識し、同時に、大阪は能だけでなく、文楽や講談、落語など様々な上方伝統芸能が生まれ、育まれ、たしなまれた、他のどの都市にも負けない文化集積都市であること、そしてその魅力を貴重な文化遺産として地域の活性化に役立てていくことの大切さを学びました。同公演は、現在まで200回近く開催し、現在も継続中で、それまであまりなかった、大阪の芸能関係者の横のつながりを生み、新たな芸術創造のきっかけとなり、文化振興に貢献させて頂いていることを有難く思っています。
また、能楽を「現代に生きる魅力的な芸能」と捉え直し、新たなファン層の開拓をすることが、私の大切な仕事ですが、、初心者でも気軽に参加できる公演や現代美術家の視点を取り入れた企画をおこなう中で、たくさんの素晴らしい方々と出会うことができ、いつも感謝の気持ちでいっぱいです。
さらに、次代を担う子供たちへの能の普及と継承にも力を注ぎ、これまでに全国で8万人の子供たちに能の魅力を伝えてきました。また、大阪大学の大学院に能の研究のためにブルガリアから留学してきたペトコ・スラボフさんと出会い、2010年からは、毎年海外公演を実施し、能楽による国際交流をおこなってきました。2018年に大阪城とブルターニュ大公城(フランス/ナント市)の友好城郭提携においてオペラ座で能の公演を実施し、国際親善につとめさせて頂いたのは大変名誉なことでした。

お仕事以外で、何か活動(趣味、地域活動など)をしていらっしゃいますか?

山本能楽堂の近くを流れる東横堀川の活性化に、地元の方と一緒に取り組ませて頂いております。東横堀川は、大阪で一番古い堀川で、大阪城の外堀として秀吉によって開削された川です。平成21年に大阪で官民一体となって開催された「水都大阪2009」に向けて、東横堀川水辺協議会(e-よこ会)が発足され、私も初代幹事をさせて頂きました。界隈には、江戸時代に大阪の玄関口だった高麗橋や、大阪市内で一番古い現役橋の100歳を超える本町橋など、まちの宝物がいっぱいあります。これらの陸の魅力と川をつなぎ、水辺空間をより魅力的にするために、メンバーのみなさんと一緒に活動しています。第3期のサクヤヒメ表彰者の杉本容子さんとは、この水辺で出会いました。現在は、来年から東横堀川の新しい水辺の拠点をみんなで運営することになり、夢を膨らませています。
また、2013年より大阪市中央区役所の事業を5年間受託し、大阪商工会議所、船場近代建築ネットワークと協働で、「船場を遊ぼう」の事業を通して、大阪屈指の歴史と文化の宝庫である船場地区の活性化を行わせて頂きました。その時に第2期のサクヤヒメ表彰者の星野幸世さんと出会い、今も様々な事業を一緒に行わせて頂いています。山本能楽堂は主人の祖父の山本博之が創設しましたが、祖父の頃から船場とのあたたかいご縁がこうして今もつながっていることを有難く思っています。
私自身は大阪で生まれ育っていませんが、この2つの事業を通して、大阪の文化度の高さや、まちの魅力を知り、関わらせて頂くことができ、本当に嬉しく思っています。かつては、文化度の低い、少し下品なステレオタイプ化された大阪のイメージを私自身は持っていました。大阪は本当に素晴らしい、文化度の高いまちで、今では、誇りに思っています。

これまでの人生を振り返ってみて、困難はありましたか?また、どうやってその困難を乗り越えられましたか?

困難の連続でした。今も困難なことばかりです(笑)。落ち込んだ時、困った時、壁にぶち当たった時、一人では解決できないようなことも、周りの方々によって、助けて頂いてきました。一緒に考えて下さったり、気持ちに共感して下さったり、ただただ話を聞いて下さったり、、、、そんな中で、本当に困ったことに直面した時、友人が、玄田有史先生が書かれた『希望のつくり方』に書かれている次のフレーズについて教えてくれました。2015年の朝日新聞の「折々のことば」で鷲田清一先生が取り上げていらっしゃったそうです。

「大きな壁にぶつかったときに、大切なことはただ一つ。壁の前でちゃんとウロウロしていること。」

大きな壁にぶつかった時、どうしよう、どうしようと、とにかく立ち止まらずに壁の前を行ったり来たりする。そのとき本当に偶然なのですが、壁の下に小さな穴がみつかったりすることがある。(中略)そこに勇気を持ってもぐりこんで、もがいているうちに、壁の向こうにたどりついたりすることがあるんです。その穴は、行動せずに立ち止まっていただけでは、みつからなかったかもしれない。 玄田有史『希望のつくり方』より。

玄田先生のこの言葉を聞いた時、気持ちの中にすっと1本の光が差し込みました。それからは、困った時は、落ち着いて、できる限り壁の前で、ウロウロするように心がけています。

SDGsに興味をもったきっかけは?

先ほど少しお話させていただいた、2009年に官民一体となって開催された「水都大阪2009」の最終日を彩るイベントとして、新作能「水の輪」を、当時新しく整備された新しい大阪の水辺の拠点である天満橋の船着き場で、制作・初演させていただきました。「水の輪」は、水の浄化をテーマに環境問題について考える新しい能の作品です。汚れてしまった大阪の川の水を、こども達が扮する大勢の水鳥たちがきれいに掃除をして美しくよみがえらせます。そして、再びきれいになった大阪の川に、水の神様が現れて大阪の繁栄を言祝ぎます。
2009年に初演した後は、大阪市中央公会堂、大阪城西の丸庭園、中之島GATEなど、そして、大阪の源流である琵琶湖の近江八幡、小豆島、屋久島、隠岐の島、ブルガリアなど、各地で再演をくりかえし、こども達と一緒に「水を大切にする気持ち」で世界を1つにつなげたいと思い、活動を続けてきました。そのような中、2015年に国連でSDGsの目標がかかげられ、私達も、この「水の輪」の活動を通して、SDGsの達成のために、日本の伝統芸能の力で取組んでいきたいと考えるようになりました。

ご自身のお仕事や生活の中でSDGsをどのようにとらえていますか?

2015年以降、この「水の輪」の活動をSDGsの達成のためだと位置づけて、活動を続けてきました。2016年には、内閣官房の東京オリパラの調査事業として15か国から来た20人の外国人のこども達と一緒に、2018年には被災地の大船渡市で現地の民俗芸能のこども達と、そして2019年には百舌鳥・古市古墳群が世界文化遺産登録されたことを記念して、藤井寺市でこども達と市民の方50人に出演していただき、「水の輪」を上演しました。
「水の輪」は、14の「海の豊かさを守る」ための作品ですが、昨年9月に15の「森の豊かさも守る」ために、新作能「オルフェウス」をブルガリアで現地のこども達20人と一緒に、古代ローマ時代に作られた円形劇場で制作・初演しました。「オルフェウス」は、こどもた達が、木の精や、動物、植物、魚、虫たちになって、バルカン半島の山々の美しい緑を讃えます。出演したこども達は、DVを受けていたり、両親が麻薬患者、ジプシーのこども達で、友人のブルガリアの国民的女優・マヤさんが運営される施設のこども達でした。名前を聞けばどの階層の出身かわかるブルガリアで、エンドロールではあえて、こども達一人一人の名前と顔写真を掲示しました。ブルガリアの人々が大好きな日本の、最もハイカルチャーと言われる能楽の新しい作品に、こども達が出演することで、未来が少しでも変わることにつながれば、と思いました。
能は約650年前に大成された、日本を代表する伝統芸能ですが、その中には、日本人が古来から大切にしてきたサスティナブルな要素が凝縮されて残されています。自然と共生してきた日本人の精神性の中に、持続可能な社会の実現のための要素がたくさん残されていると思います。それらを紐解き、よりよい社会の未来のために、活かしていくことが目標です。

大阪・関西の女性がキラリ輝くために、何が必要と思いますか?

困難な壁にぶち当たった時に、いつも助けてくれたのは、同じ女性の方々でした。人生において、誰もが様々な壁にぶちあたるのではないかと思います。女性同士のつながりがもっと深まり、もっともっとネットワークが広がることで、悩みを共有し、お互いに励まし合い、勇気を与え、壁を乗り越えられるこができれば、女性がますますキラリ輝けるのではないかと思います。、私が仕事を通して出会った女性のみなさんは、有能で真摯で思いやりの心を持たれる方が多く、大きな刺激を頂き、学ばせて頂き、また支えて下さいました。サクヤヒメ表彰をいただいて、一番嬉しかったことは、キラリ輝くヒメのみなさんとのネットワークを頂けたことです。たくさんの出会いに、ただただ感謝しています。

さいごに、大阪・関西の女性にメッセージをお願いいたします。

コロナ禍を迎え、これまでの価値観でははかりしれない「新しい時代」が、急激にやってきました。先のことが想像できないくらい早いスピードで社会が変動しています。それを乗り越え、新しい次の価値観を創造していけるのは、しなやかな日本女性の力だと思います。そして、大阪・関西の女性ならではの明るくて、おおさかで、あたたかい魅力、女性ならではの知見と愛情で世界を変えていく事ができると信じています。持続可能な社会の実現に向け、一人一人が多様で多彩な個性を活かし、みんなで支え合って、力を合わせ、より良い未来に向かっていければと思います。

ありがとうございました。

(取材:2020年9月/所属・役職名等は取材時のものです)

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